Head On@Film

レズビアンの監督、(ANA KOKKINOS/写真<1>)によるオーストラリア産のゲイ映画が最近人気を呼んでいる。「ゲイ映画」といっても根底のテーマは第二次世界大戦後にオーストラリアに渡ってきたギリシャ移民コミュニティーの保守的な実体やオーストラリア人との確執、人種差別の問題などを扱ったかなりシリアスなモノ。マイノリティー・エスニックグループの(特に若い世代達の)自分の国の文化を捨て本国の主流へと流れ込みたい、でも流れ込めないその苛立ちを描いた秀作。

オーストラリア生まれのギリシャ人、19歳のアリ(Alex Dimitriades )は両親と一緒にメルボルンのギリシャコミュニティーのセンター地域に住んでいる。彼はいつまでもこの小さなギリシャ・コミュニティーから抜けだせない事に苛立ちを感じている。彼の両親もこんなアリの事は放ったらかし。母親は息子に金を与え続け、甘やかしてばかりいる。それに加えゲイやドラックに対しても厳粛な国柄、そして家族の絆を常に大切にしている事。全てに不満を持ち出したアリは仕事もせずにコカインを常用し、街をふらつき、行き当たりばったりのスリルなセックスを楽しむ。この映画はこんな彼の24時間の行動を追ったロードムービータイプに出来上がっている。

とはいっても早朝のベットでのマスターベーションシーンに始まり、コカインを吸った後、ガンガン音楽を聞きながら街を彷徨い、たまたま目があった肉屋のオヤジ(ムッチリ系)と街角セックスに走り、気が向いたら公衆トイレで男を蝕んだりと遊び捲ってはいるのだが、そんな行動からゲイであること、オーストラリアで生まれたにも関わらず「ギリシャ人」として暮らさなくてはいけない苦悩が感じられて見ていて「痛々しい」という印象を受けた。ゲイであること、2つのカルチャーにいなくてはいけないという混乱、家族の保守的な考えに対する反発。その結果起こるべき不安定さ、孤独感などか彼を自己破壊の道へと導いているのは間違いない。

そして彼にはトランスベスタイの友人、ジョニーがいる。彼は自分のセクシャリティに自信を持っていて、何処へでも「自分のスタイル」で出かけ、人に何と言われても動じない。アリとは正反対の性格でこのコントラストはいい味を出している。「他人」と違う事によりコミュニティーからも非難をうけ、たまたま麻薬の所持で捕まったメルボルンの警察署でも「ギリシャ人」というだけで暴行などの虐待を受けたりと、本国人とは明らかに違う対処をされたりするのだ。

アリの行動に共通して言えることは真実に向き合おうとせずにそこから常に逃げようとしているという事実。これは人種問題に限らず常に考えていかなければならない物。「尊重」し「考慮」することによって新しい自分が出てくる事も絶対にある。タイトルにもある通り「HEAD ON(正面から/まともに)」が隠されたテーマであることは間違いないだろう。成長してこれから次のステップへ移ろうとしているがまだ移りきれていない若者達の苦悩が感じさせられる映画でもあった。
 
●ひとくちメモ
 アリ役のアレックスはコメディの舞台やTVドラマで「爽やか君」を演じていた若手俳優で今までとまるきり違った役柄演技、シチュエーションに少し戸惑っていたものの、今までの自分のスタイルとは違う役を演じきれたことに満足感は持っているよう。それに彼は「ノンケ」だった為にいろいろ苦労したシーンもあったらしい。撮影中の面白いエピソードがあり、オープニングのマスターベーションのシーンでは彼の「完璧主義」的な俳優哲学で「自分の半立ちのモノを見せる訳にはいかん!」という訳で撮影クルーに20分間待たせ、自分で気分を作り、乗ったところで全員を呼び戻し、一気に撮ったというものだそう。(笑)実際にイッたのかは画面上からも察しできないが。。。。(本人自身も覚えてないらしい?)必見である。
1999/11/15